ペルシャ絨毯は、日本の漆器や陶器と同じように実用的な工芸品であり、漆器や陶器の中にも実用品の範疇を超え美術品と呼ぶにふさわしい類があるのと同様にまさにアートと呼ぶ以外の何物でもない美術品クラスの物もあります。ただ美術品は本来実用品であることを必要とはしませんが、ペルシャ絨毯は、たとえ出来上がったばかりのものが、どんなに素晴らしく胸を打つ美術品であったとしても、それを使い込み愛でる長い年月を経なければ本当の意味で美術品として完成しないものです。漆器や陶器にしても数百年の長い間、大切に使われ、よく伝世した物に、新しい物には決して有り得ない、えもいわれぬ美しさを増していった物が多くあります。それはおそらく作る側の思惑とは別に、所有した者がそれを深く慈しむことによって長い年月のうちに“器物が育っていった”結果であろうと思われます。
ペルシャ絨毯においては、これは美術品と呼ぶべき範疇の物を作る人たちの考えではありますが、作る側がはじめの段階で100年後の最も美しくなる状態を模索、想定して色糸を選び、あるいは染め上げ、製作をするという姿勢があることが、はじめに述べた長い年月を経ないと本当の意味で完成しないという言葉の意味であり、少なくとも100年の使用に耐えるべく堅牢に織り上げようとする織り手の、織ることに対する妥協の無い執着があります。小さなものでも1年以上の時間をかけて織り上げるペルシャ絨毯だからこそ、良いものを作ろうとすれば素材と染めには、徹底的にこだわります。
イラン北部のホラサンやクルデスタン地方の山岳部を遊牧する羊から取る最良のウール、それも春に刈り取る最も水分を含んだ弾力性に富むしなやかで強靭なウールや、カスピ海の南モーガン地方の山繭から取るシルクなど、50年100年の使用に耐え更に輝きを増すペルシャ絨毯を支えているのが、それらの絨毯に最良な素材たちです。